リーン製品開発ブログ

18
Oct

1DCAEとセットベース思考

10月17日に精密工学会主催の1DCAEに関するセミナーを受講しました。非常に濃い内容で大変強い刺激を受けました。結論を言えばIDCAEはセットベース思考と同じ発想の開発思想です。セミナーの概要と私の感想を書きます。

セミナータイトル「極める1DCAE−その上流設計の実現から、エンジニアの育成、設計事例まで」

1DCAE概念にもとづくものづくり 株式会社東芝 生産技術センター参事 大富浩一

「1DCAE」とは何であり、それはどのような経緯で発展してきたのかということを説明した講演です。大富氏はキャリアの前半を原子炉や宇宙ステーションの装置など、設計の実証が非常に難しい製品をざっくりした概略モデルでの解析→コンピュータシミュレーションでの解析→原理試作、部分試作での検証→実際の製品の保証 という方法で設計してきました。ところが試作や検証がそれほど困難でない一般的な製品分野ではこのような面倒くさい開発方法はとられませんでした。しかし近年製品ライフサイクルが短縮化し、開発リードタイムが短縮すると構想設計段階に十分な検討を行わず設計を進めて手痛い手戻りが発生する場合が増えてきました。そこで大富氏は1DCAEという概念を提唱し、製品開発の一番初期段階の概念設計、構想設計段階において数式、シミュレーションなどのラフなモデルを使って広い設計空間を探索する方法を考案しました。

1DCAEと機械製品設計における材料設計 (株)日立製作所 信頼性科学研究所 主任研究員 山崎美穂

1DCAEの中での材料設計の方法論の講演です。山崎氏は材料選定を概念設計時に手戻りなく行うには材料の本質的な特性を理解する必要があると説明されました。特に主要な材料のヤング率は極めて重要な属性であるため、ざっくりとした値は暗記すべきです。次に山崎氏は「材料のヤング率はなぜ材料により違うのか?」という疑問に原子レベルまで遡って理解することの重要性を説明しました。特に一次結合(イオン結合、共有結合、金属結合)と二次結合という原子間の結合原理の差が物性に影響する原理を理解することが重要です。また材料の物性を理解する際に思考実験をしたり、頭の中に原子レベルのモデルをイメージすることが役立ちます。最後にこのような原子レベルの考察を使ってセラミックを樹脂で充填する際に発生していたクラックを大幅に低減できた事例の説明がありました。

モデルベースシステムズエンジニアリングとSysML(Systems Modeling Language) 慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科教授 西村秀和

「システムとは何か」という問いから始まりこの講演はSystems of Systemsの設計に役立つシステムのモデル言語の概要と応用を説明しました。1DCAEでは概念設計の際にシステムの様々な利害関係者が曖昧模糊としている(システムがまだ構想段階で形になっていない)段階でいかに効率的にコミュニケーションしてコンセンサスを得るかが重要ですから、システムをモデリングして誰にでも理解できる手法が必要です。SysMLはソフトウェアシステムの世界から来た手法でシステムの構造、要求(要件)、振る舞いとパラメットリック制約(トレードオフ)を表現できるモデリング言語を提供します。これによって例えばシステムの要求を変えるとそれが他の要求にどのように影響するかが分かり、システムの利害者間の調整が容易になります。最後にエレベーターの待ち時間を短縮するという事例が紹介されました。

分野融合型演習課題の開発とその実践  信州大学 学術研究院 教授 千田有一

信州大学大学院で行っている学問分野を横断した演習課題の講演です。今まで企業は大学では基礎理論だけを教えてもらい、実践は社内で教育するという方針だったのが近年は卒業生に実践力も求めるようになりました。それに応えるべき千田教授は1DCAEの手法に基づいて機能設計から詳細設計までを振動力学、材料力学、制御工学など複数の専門知識とコンピューターシミュレーターを使って実習するコースを実施してきました。大変ハードな内容にもかかわらず、学術研究院生の7割近くが毎年受講し、好評であるそうです。

気づきを起こし解決に導く1DCAE 株式会社IHI 技術開発本部 R&Dテクノセンター 解説技術部 最適化グループ主査 呉宏堯

IHIでは90年代にロケットエンジンを開発する際にセットベース開発という手法を独自に編み出し、大きな効果を出しました。当時日本のロケット開発は何度も発射失敗を繰り返していましたが、IHIのクループは今までにない開発方法を使って開発LTを半減しながら大きな手戻りがなく開発に成功しました。ロケットエンジンは実験に膨大な費用がかかります。それまでは開発者の勘と経験で一つの設計解を決め打ちしていたのが、この場合は構想設計段階で多数のパラメーターを幅広く振って膨大な数のシミュレーションを自動的に行い、広い設計空間を探索しました。そして得られた膨大な解析結果から、信頼性、寿命、コスト等の設計上の制約条件を満たす解だけをフィルタリングするというセットベース設計の手法を編み出しました。

結果的にはパレート解と呼ばれる一群の最適解が自動的に計算されました。これを社内で提示することにより、設計解が実行可能であるというコンセンサスが容易にとれるようになり、開発業務の効率化に役立ちました。この手法はその後ジェットエンジンのタービンブレードの最適設計など幅広い領域に使われています。この手法は従来の手法に比べて解析作業が増えますが、大きな手戻りや、設計解に関するコンセンサスをとる手間が大幅に減るので、設計現場では抵抗なく使われたそうです。

感想

一日の講演だったが、講演内容がどんどん頭に入ってきて、「そうだその通りだ」とか「なるほどそうだんだ」と思いながらメモを取りました。頭が爆発しそうになるほど情報密度が高い講演でした。結局一番大きな気づきは1DCAEとはCAEではなく開発思想であり、その意味では私が推進しているリーン製品開発、特にセットベース思考と全く同じ考え方に基づいているということです。アレンウォードがトヨタの製品開発のやり方からセットベース開発を思い立ったのは90年代ですからまだCAEがほとんど普及していない時代でした。その当時に比べてムーアの法則のおかげで計算コストは100万分の一位に低下しています。私自身は1DCAEとセットベース思考を統合した構想設計革新運動に発展できたらなあと思いました。

 


Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *